八月の君は悪魔
夕立が街を洗って午後の微熱を下げた 私は魚になって退屈なこの街を泳ぐ 君の前では言葉もすっかり意味を失って その圧倒的なきらめきを前に私は成す術もない 君が雑に書いた私の名前が好きだった 鉛筆の黒が移った手の縁に気を取られて 日が暮れたことにも気づかずに 夜の児童館の前で口付けた君は悪魔だった 貧血気味な私は全身の力が抜けてしまって 肘のあたりに夏が伝った 何を考えていても君に辿り着いてしまう 私の不毛なこの思考回路を呪ってやりたいよ そんな涼しげな目をして私を見ないで もっと一生懸命私だけを見て 離れられなくなって 君のめがねの跡にそっと触れた時分かった 私のものになんかなるはずないぐらいに君が遠いこと 夜の児童館の前で口付けた君は悪魔だった もう遅かったみたいだ どうやって打ち消しても愛しくて泣けるの |